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顔の傷

僕の顔には二箇所、外科手術の痕がある。

ひとつはおでこ、もうひとつは頬で、両方共に顔の左側だ。

おでこの怪我の方が古く、10歳くらいのときではなかったか...。

 

その日、いつもの遊び仲間たちと珍しく野球をやった。

バットやいわゆる軟球を誰が持ってきたのか不明だが、それで三角ベースの試合をやることになった。

ちなみに僕はキャッチャーだった。

 

キャッチャーの僕はポジションを動かなかったが、バッターボックスに立った奴が一歩後退しながら振ったバットが僕の額に当たった。

衝撃はあったが不思議なもので痛くはなかった。

ただ眉毛を伝わり血が流れ落ちるのが分かったからポケットから白いハンカチを取りだして額にあてた。

一度ハンカチを額から離したときはじめて怪我の重大さを知った。

 

白いハンカチは一面真っ赤で絞れば血が滴るように思えた。

勿論僕は医者に連れていかれて数針縫うはめとなった。

母が言うには、医者から今日は絶対安静にして寝ていなければならないし、もし頭痛と吐き気がするようなら救急車を呼べ、命にかかわるかも知れないからと言われたという。

幸い僕は吐き気を催さず命拾いした。

 

頬の傷は自分の過失だった。12歳くらいだったか...。

公園にあった遊動円木に跨がり前後に揺すっていた。

勿論両手は円木に打ち込まれているコの字型の取っ手をしっかり掴んでいるつもりだったが、揺れを大きくしすぎ自分で制御ができなくなり、気がついたら左頬骨のあたりを鉄製の取っ手に打ち付け転がり落ちていた。

 

転がり落ちた僕は周りにいた大人たちによって近所の外科医に運び込まれた。

医者がいうには「目に近い位置なので麻酔は危ないから麻酔なしで縫う」という。

驚きと恐怖心で一杯だったが、手術台に仰向けになった僕は押さえつけられて身動きできなかった。

 

いまでも覚えているが弯曲した手術針が近づいて来るのを見ていた。

確かに痛いことは痛かったが、傷の痛さにまぎれたのか声を出すことも暴れることもなく我慢できた。

しかし顔に二箇所も縫った痕があるのは自分でも嫌だった。

そんな話になると母はいつも「男は傷の一つや二つあった方がかっこいいのよ。芦田伸介を見なさいな」

と訳の分からない慰めをいってくれた。

 

すでに傷を負ってから50数年も経っているが、季節の変わり目にはチクチクという感触が宿るのだから不思議だ。

そんなとき僕は「う〜う〜るるるるるるうららら...」と芦田伸介が刑事役で当たったテレビ番組「七人の刑事」のハミング主題歌が自然と口から出るのだった。

 

 

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