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クリスマスケーキ

クリスマスはキリスト教徒でなくても特別の日だ。

その季節は華やかでうきうきしてくるものだが、僕には12月24日に辛い思い出がある。

それは僕が初めて就職した年の出来事だった。

東証一部上場企業の本社勤務だったが給料は安かったものの高度成長期に入った時代だったから勢いがあった。

 

その年の師走、父は職を失っていた。

理由は知らないがここ数ヶ月の間、職を探して毎日出かけていた時代だった。

ところでクリスマスと言えばケーキだ。

別にクリスチャンでもない僕らがクリスマスの楽しみと言えばプレゼントかケーキを食べることくらいだった。

 

すでに僕らの年齢ではサンタはやってこなかったから楽しみは家族で食べるクリスマスケーキしかなかった。

それが僕らのクリスマスそのものだった。

そのケーキを買ってくるのは家長としての父の役目だった。

会社の連中と酒を飲み、酔って帰ってくるときもケーキは必ず買ってきてくれた。

少し崩れていたこともあったが...。

 

しかしその年のクリスマスが迫る頃、僕の家は暗く沈んでいた。

なにしろ父の仕事がまだ決まっていなかったからだ。

それこそ日々食べるだけで手一杯であり、クリスマスどころではないという雰囲気が漂っていた。

どう考えても例年通りクリスマスケーキを父が買ってくるとは思えなかった僕は一大決心をした。

 

なにしろクリスマスイブにケーキも無いようでは家族がより沈んでしまうに違いない。

幸い僕は給料や賞与が出ていたからクリスマスケーキのひとつやふたつは買うことが出来た。

家族に寂しい思いをさせるのは忍びないからとクリスマスイブの夜、会社の帰りにケーキ屋によってそこそこ立派なケーキを買った。

はじめて買ったクリスマスケーキだった。

もし父のとダブったらそれはそれで良いではないかと僕は考えた。

 

その日の父は僕より後に帰って来た。

やはりその手にケーキの箱はなかった。

ネクタイを外しながら食卓の上に置いてあったケーキの箱を見て父は寂しそうにいった。

「ああ、ジュンが買ってきてくれたか...」

その寂しそうな、申し訳なさそうな父の姿を見たとき僕はケーキなんか買ってくるんではなかったと思った。

 

クリスマスがなんだ! ケーキがなんだ!

父に悲しい思いをさせたのなら、ケーキなんか始めから無くても良かったのだ。

そんな僕の思いを知ってか知らずか、父は穏やかに食卓に座り、ケーキを魚に酒を飲み始めた。

 

 

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