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内職と映画音楽

我が家は貧乏家族だったけれど母は専業主婦だった。

母は女学校を出てから銀行に勤めた経験もあり、許されるなら家計を助けることもできるからとパートに出たいと考えていた。

しかし父が許してくれなかった。自分のプライドのためだったのか...。

 

だから母ができることはささやかな内職をすることだった。

ご近所に内職の元締めがいて、そこにいけば今月の仕事が割り振られるようだった。

ダンボールの仕切りを十字に組むといったかさばる仕事からビーズに針を通すような繊細な仕事まで多彩なものがあった。

 

そうした仕事を指定の日時までに数を仕上げ、風呂敷にくるんで持って行くことが続いた。

無論僕もかさばる時には風呂敷のひとつを担いで母と10数分だったか一緒に歩いて運んだことも度々だったし内職自体も手伝った。

なにしろ僕は器用だという自負もあったし母から誉められると俄然やる気が出てきた。

 

内職の仕事はどれもこれも単調で面白いと思うものはほとんどなかったがひとつだけお気に入りの仕事があった。

それは小雑誌に綴じられている数個のビニール袋に指定されたソノシートを入れ、最後に小雑誌そのものもビニール袋に収納するという仕事だった。

細かなことは覚えていないが、例えば小雑誌は「ヨーロッパ映画音楽」とか「西部劇サウンドトラック」といったタイトルが付いていた。

 

お気に入りはソノシートが余ると各一枚ずつは貰うことが約束されていたこと。そして小雑誌には見た事もない洋画のストーリーや映画俳優らの写真とプロフィールなどが詳しく紹介されていた。

僕と洋画の接点はそのソノシートから始まったのだ。

無論しばらくの間はソノシートを聞くレコードプレーヤーが我が家に無かったから聞くことができなかった。

 

どのくらい経ってからか、母がテントウムシをかたどった安物のレコードプレーヤーを買ってくれたので初めて数十枚溜まっていたソノシートで映画音楽を聴くことが出来た。

「子象の行進」「鉄道員」「太陽がいっぱい」「ジェルソミーナ」「禁じられた遊び」等など。

みな内職のソノシートで聞き覚えた映画音楽だったし僕は映画も見ずに洋画通となった。

 

 

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