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ルビーという猫

母は銭湯に行くのが恥ずかしいと笑っていた時期があった。

なぜならその時期、背中一面縦に長い傷が幾筋もあったからだ。

それは夏のある日、あっぱっぱ を着て台所仕事をしていた母の背中に飼い猫のルビーが飛び乗り、両手の爪を立てたまま「ず〜」と落ちたときについた傷だった。

 

さすがに我慢強い母も悲鳴をあげた。

ルビーの両手の傷から血が滲み出ていたから僕はオロナイン軟膏を持ってきて傷一面に塗った。

当の雌猫は父がブリーダーの真似事をしようと買ってきた血統書付きのシャム猫だったが、実に気の強い猫だった。

なにしろオモチャのコルク銃を撃つと、まるで猟犬のように飛んで行ってそのコルク弾を加えて持ってくる猫だった。

 

室内飼いだったからストレスもあったのかも知れないが、時々フ〜ッという声と共に全身が総毛立ち、四つ脚はつま先立ちしたまま背を曲げ我々に飛びかかろうとすることがあった。

そのまま飛びかかられては僕たちに勝ち目はなかったから、そういうときには手近の座布団を盾代わりにして防御する。

 

ほんの1,2分でそうした行為は収まるが母の背に飛びかかったのもその一環だったのかも知れない。

その手強いルビーもいつしか大人しくなり毛の色があせてきた。

医者に診せたところ子宮ガンとのことですでに手の施しようもないとの話しだった。

時に医者が往診にきたとき「こんにちは」と声を聞いた瞬間にルビーは押し入れの布団の間に潜り込んで逃げた。

 

しかし数ヶ月してルビーは病院から冷たくなって帰って来た。

僕らは交互にルビーを抱きしめながら泣いて泣きまくった。

親が死んでもこれだけ泣かないだろうと笑われたくらい大泣きした。

 

ルビーという名はその目が光の具合で時に宝石のルビーのような赤く見えることからつけた名前だった。

無論血統書の名は絶対覚えられないほどの長ったらしい立派な名がついていたが、たまたま宝石のルビーといった言葉やビジュアルを目にするとあの女王様のような飼い猫、ルビーの雄姿を思い出す。

 

 

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