父親の嘘
父は若い頃には油絵を描いていたし何ごとにも器用な男だった。
僕が縁日で買いたくても買えなかった針金のオモチャの話しをすると「よし、おとーさんが作ってやる」と針金とペンチを取りだして三輪車やゴム鉄砲などをその場で作ってくれた。
三輪車はなんと輪ゴム動力で動いた!
僕は「縁日のより凄い」と飛び上がって喜んだ。
だからというわけではないが子供にとって親は絶対だ。
いうことなすことすべてが正しいと思っていた。
そういえば物心がつくまで信じていた父の嘘が2つあった。
もっとあったかも知れないが覚えているのは2つだけだ。
ひとつは父が柔道の有段者だという話しである。
事実機嫌が良いと狭い畳の上で背負い投げや巴投げといった技を教えてくれた。
あるとき銭湯でどんなことが原因だったか、父と男が小競り合いとなったことがあった。
幸い中に入ってくれたオジサンが双方をなだめ、大事に至らなかったが、僕は子供心に「オトーサンは強いのだから背負い投げでやっつけてしまえばいいのに」と思った。
柔道の有段者という話しが酒の勢いだったと知ったときには本当にがっかりしたものだ。
もうひとつは地震の起きる原因を教えてくれたことがあった。小学校へ行く以前の話しだ。
父がいうには「ほら、あそこの電信柱の上に大きな箱があるだろう」と指さし、
「あの中には地震の神様がいて、悪い子がいるとあそこから地面に飛び降りるんだ。その震動が地震になるんだぞ」といった。
後年、父が箱といったのは柱上変圧器だということを知ったが、こちらは父のユーモアが伝わってくるようで、それを信じていた我が身が可笑しくて仕方なかった。
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