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罰が当たるぞ

僕が小学3年生くらいのときだったか、我が家は6畳一間のアパートに家族5人が住んでいた。

父の仕事が定まらず家計は火の車だったし両親の気苦労はいかばかりだったか...。

 

そんな時代にアパートの知り合いから母はとある新興宗教の入信を勧められていた。

しかし我が家は両親共に入信するという気はさらさらなく断り続けていたが、どうにも断り切れない仲介者が入ったためにお試し期間として数ヶ月入信するということになったらしい。

 

無論神棚などあるはずもない6畳一間の片隅に宗教団体から得た掛け軸をかけ、朝晩手を合わせるということになった。

子供心に新鮮だったのはその際に唱えるお経だった。

僕たちが、いや両親でさえそのお経の意味など知る由もなかったはずだ。

ともあれカナがふってあるので声に出すことはできるらしく母は朝晩手が空いた際に経を唱えていた。

 

しかし早晩問題が表面化してきた。

それは信者の兄貴分、姉貴分と称する人たちが我が家を頻繁に訪れるようになったからだ。

理由は一緒に経を唱えて教えを諭すことにあるというが、彼ら彼女らはきたいに食事時になると「今晩は」とやってくる。

そして我々が食事中だろうとかまわず掛け軸の前に陣取って経を唱え始めるという日課になった。

 

とはいえ我々が食事をしているときだから、貧しいとはいえお茶の一杯では心苦しいと「よろしかったら粗末な物ですが召し上がっていただけますか」ということになるではないか。

最初はたまたまだろうと考えていた母も、そうした日が続くとこれは意図的に食事時に来るのだということを悟った。

そうしたこともあって父と相談の上で入信を辞めようと決心した。そろそろお試し期間も過ぎたし仲介者の顔もたっただろうからと…。

 

そうした意志を伝えると彼ら彼女らは血相を変え「脱会すると罰が下る」と脅かし始めた。

それは小学生の僕が聞いても幼稚でバカバカしい脅しだった。

掛け軸を外して粗略にしただけで罰が当たるといい、とある信者が掛け軸を水に濡らしたからとアイロンをかけたら当人の背中にアイロンの形の火傷跡が出来た...とまでいう。

 

母は「本物の神様仏様だったら我々凡夫に罰をあてることなどあるはずもない」と一蹴して強引に脱会した。

掛け軸を返そうとしたものの彼ら彼女らは受け取らなかったので丸めて押し入れにしまい込んだ。

無論罰など下るはずもないし、もともとどん底の生活だったのだから母は「これ以上どんな罰が当たるというのかね」と苦笑していた。

ただし子供の頭は柔軟だ。

僕はいつしかその経の大半を空で覚えてしまった…。

 

 

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