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Mac初のデジタルムービー制作ソフト「VideoMagician」誕生

1989年秋口に事務所を開設した我々だが、主な仕事は広告代理店からの開発依頼を無事仕上げることだった。すべてがこの仕事にかかっていたわけだが当初の予想に反し早くも我々の会社の噂を聞きつけていくつかの企業からコンタクトがあり、そうした会社の担当者らが来社される機会が多くなってきた。

 

キヤノン販売もそうした企業のひとつだったが、記録を確認すると会社設立の翌年1月に早くも基本契約書を提携している…。

ともあれ我々には応接室などという気の利いたスペースはなく、副社長が常駐している小さな開発室にテーブルと4人分の椅子を置いた場所が来客と接するスペースでしかなかった。

訪問の依頼を受けるとき、私はそうした事情を説明し4人ほどしか着席できないことを伝えたにもかかわらず営業やら技術者やらが7人も8人も来られ、大半が立ち見という大変申し訳ない結果になることも多々あったが不思議にクレームはなかった(笑)。

 

そんな折り、スワイヤトランステック社という外資系企業からPersonal Visionというビデオボードが持ち込まれた。後から知ったことだがどうやらMacworld Expoツアーにご一緒したこともある理経の菊池さんが(当時)紹介してくれたらしい…。ともかくスワイヤトランステック社は米国メーカー(OrangeMicro社)の日本総代理店という立場からこのビデオボード(Personal Vision)の可能性を含めた評価をして欲しいという主旨だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当時のMacintoshは1987年に最初のカラー仕様のMacintosh IIが登場し1989年3月にMacintosh IIcx、9月にMacintosh IIciがリリースされたが本格的なフルカラーではなく1677万色からセレクトした256色同時表示という限界があった。

 

ともあれPersonal Visionはビデオカメラなどからの入力ソースをMacintoshに取り込み静止画データとして記録保存できる機能を持っていた。

同種のビデオカードはすでに私も数種持っていたからその種のスペックには詳しかったが、Personal Visionは前記したように映像入力したデータを最適な256色のパレットに変換する優秀な機能も有していたため、我々はこれは何らかの有益なコンセプトを与えれば売れる製品になると踏んでいた...。

何よりも我々が気に入ったのは僭越ながらスワイヤトランステック社の長谷川さん、後藤課長らが大変気持ちの良い方たちばかりだったことだ。このPersonal Visionをきっかけに同社とは後年までお付き合いが続くことになる。

 

早速副社長のKは開発室にあるMacintoshのNuBusにPersonal Visionを装着し8mmビデオカメラからの映像入力を試す日が続いていた。付属のドライバーソフトなどで不十分な部分は彼自身がコーディングしたものを使ってのテストだった。

8mmカメラをマンション5階の開発室の窓から眼下に見える交差点などに向け一画面をキャプチャするといったテストを繰り返しその能力と可能性をひとつひとつ検証していたのである。

 

クリック一回でその瞬間の映像がMacintoshに取り込まれる様を見ていた私たちは「するとさ...数秒おきに自動的なデジタイズができれば定点観測や微速度撮影が簡単にできる理屈だね」などと話し合っていたが、リアルタイムレコーディングの可能性に気がつくのに大した時間はかからなかった。

QuickTimeが存在する現在ではこうした動画も目新しいものではないが、リアルタイムにビデオの入力映像をハードディスクやメモリに記録し再生できるなら “パソコンによる実写のデジタル動画” が可能ということを思いついたのだった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

問題は当時のシステムが我々の望む理想的なスペックを有していないことにあった。なぜならリアルタイムのキャプチャは理想をいうなら秒間30フレームの映像をそのままデジタイズしメモリないしはハードディスクに記録できなければならない。

確かにPersonal Vision自体は秒間30コマの動画表示ができるスペックを有していたが、当時のMacintosh II の能力ではそれをリアルタイムに記録することは無理だった。ハードディスクより処理スピードが速いメモリに記録したとしても320×240ピクセル大で秒間15コマ程度が限界だった。

 

さらに当時のメモリ環境は現在とは違って大変小さなものだったからメモリへの取り込みにしてもものの数秒しかできなかったし現実的にはハードディスクへの書き込みが必須だった。とはいえこれまた当時のハードディスクは高価だったのはともかくスピードが遅く320×240ピクセル大で秒間10コマ程度が書き込みの上限だったのである。

 

中には秒間10コマ程度では動画にならないだろうという人たちもいたが、実際にVideoMagicianで撮影した映像を見せるとそれが秒間10コマ程度であることを分かる人はほとんどいなかった(笑)。

ともかく我々の小さな開発室で8mmビデオからリアルタイムレコーディングした動画がスムーズに再生された瞬間は手を叩いて喜んだものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにしろQuickTimeはその1年半後にならないと我々の前には姿を現さなかった時代である。無論当時は手書きのアニメーションソフトは存在したもののコンシューマー向け自然画像の動画を容易に実現できるシステムはなかったのである。

 

このVideoMagicianは翌年の1990年5月、晴海で開催されたビジネスショウでお披露目し大きな話題となった。問題があるとすればその価格だったに違いない。なぜならMacintosh本体や適切なハードディスクを別にしてもシステムに不可欠なPersonal Visionが37.5万円、専用コンバータは13.8万円だった。そして熟慮の結果決めたVideoMagicianのパッケージ価格は25万円だったからだ。

 

しかし前記したビジネスショウではまだベータ版のVideoMagicianを「β版で良いからこの場で売ってくれ」と財布から25万円を取り出す人もいて反応の良さを感じさせたものである。

結局VideoMagicianはHyperCardのXCMDを付属し1990年中に製品化された。

 

 

Personal Vision NuBusボード

VideoMagicianはHyperCardのXCMDを同梱し製品化された

VideoMagicianで作ったデモムービー。当時アニメーションソフトは存在したがまだQuickTimeは登場しておらず、こうしたビデオ映像を動画化するMac向けツールは他になかった

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