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東京都には値切専門担当部署があった!

人は嫌なことから忘れる...といった事を聞いたことがある。しかし忘れたくても忘れられない嫌な事もあるものだ(笑)。1990年、東京都知事が鈴木俊一の時代であったが、私は東京都の関連組織から仕事の依頼をいただいた。それはMacintoshをベースにした画像データベースの受注だった。

 

担当の方はビジネスそのものに深い理解を持っていただけでなく、いわゆる役人の悪いイメージなどどこにもないスマートな方だった。したがって仕事そのものはやさしいものではなかったものの、仕様の決定などはスムーズに進んだし、気持ちの良いビジネスができたと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

問題は正式に受注し、東京都と「物品買入契約書」という書類を取り交わす段になって発生した。"正式に受注"と記したが、それは当然のことながら「仕様」「納期」「金額」が決まったということである。後は形式的なこととして契約書を取り交わすことになると聞かされていた。

 

まず申請のための必要書類を東京都の担当部署に出向いて受け取り、それに記入捺印して申請提出することとされていた。聞けばその書類というのがB5のざら紙1枚ということなので、事情に疎い私は郵送してもらえないかと問い合わせたところ即却下され、○月○日の○時頃に取りに来いといわれた。

喧嘩しても始まらないから「これがお役所仕事というものか」と諦めて書類を取りにいき、後日これまた指定された日時に当該部署に出向いた。この書類を手渡せばそれで済むと思いながら...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当時の東京都本庁舎といってもいくつか建物が別れていて、どの庁舎に行ったのかについて記憶はないが現在でいうところの東京国際フォーラムがある辺りだったと思う...。

古くて小汚いドアを押して部屋に入ると小さなソファーがあり、そこで数分待たされることとなったが、ついたてひとつ向こうで担当の役人が横柄な物言いをするその内容に驚いた。

「無理ならいいんだよ...」「あと○○万値下げできないなら、他の会社もあるしさ...」といった話だった。私は嫌な予感がした(笑)。

 

※当時の東京都と取り交わした契約書(物品買入契約書)の一例(上)と仕様書に添付したシステムの概要説明書(下)

 

いかにも技術畑の中小企業の社長といった体の男性が肩を落としながら出ていくのと交代に私はそのついたての中の席に座った。正直その時交わした会話はリアルに覚えているものの、不思議なことにその役人の顔や姿形の記憶がない。たぶん私は不快の極地で役人の顔を正視していなかったのかも知れない。

 

私の嫌な予感は当たった...。目の前の担当者は書類を受け取ったと同時に中身も見もせず「○○万値引きをしていただきますよ」と切り出した。私は返事の言葉をさきほど待っている間に考えておいたと思えるほどすらすらと言った。「値引きのお話があるとはお聞きしておりませんでしたが」と。

 

契約上、納入に関して瑕疵があった場合には減額の場合があることを承知していたが、この日の面談は正式契約の場だしそれ以前に金額を含めすべての契約事項は決まったいた。

しかし私の言葉に被せるようにして役人はバカのひとつ覚えのように「ダメなら仕方がない...競合企業もあるしね」という。

 

まあ、私も自分で言うのもおかしいが百戦錬磨のビジネスマンであり、ここでどのような落としどころで済ますべきかは心得ている。だからここでテーブルをひっくり返すのは得策ではないことは理解していた。

でもねぇ、正直腹の中で笑ったのは彼のいう「...競合企業もあるしね」などという話はこの受注に限ってはないのである。だから「おうおう、面白い...その競合とやらにやってもらおうではないか!」と啖呵も切れたのだが...やめた(笑)。

 

「分かりました。基本的にはお受けしますが担当部署の責任者の方にひとことご理解をいただいてから正式にご返事します」とその場を離れた。

 

席を離れると同時に待っていた次の男性が滑り込むように、その席につく。私はドアの外に出て鞄の中の書類を整理するふりをしながら聞き耳を立てたが、案の定「...値引きは了解いただけましたか」という会話が聞こえてきた。

ここは正式な部署名はあったはずだが、驚いたことに「値引き担当部署」なのであった。それもそれまで長い時間をかけて仕様などを取り決めてきたそうした行きかがりなどを全く無視した値引き専門部署であった。

 

古くさい建物を背にしてから早速電話ボックスを探し、注文をいただいた担当者に電話を入れた。事情をかいつまんで話すと彼は「それは申し訳ありませんでした」と謝罪してくれた後に、話をこじらせる事は得策でないからここはその値引きを受けて欲しい。ただし1ヶ月後に控えている二回目のオーダー時にその値引き額を考慮して上乗せを約束するから...といってくれたのだった。したがって私の会社としては幸い1円も損はなかったが、値引き係の役人の働きも何にも効力がなかったことになる(笑)。そして結局東京都との契約は1990年から1993年まで続き、計4回の契約にこぎ着けた。

 

ビジネスに値引きはつきものだ。私は値引きの交渉が悪いなどと青臭いことを言っているわけではない。都民の血税で仕事をしている限り、不必要な経費は削減すべきだし業者に依頼する仕事も安いことに超したことではない。しかしその後も数回その東京都の担当部署に出向いたが、その担当部署こそ東京都民にとっても業者にとっても「不用な部署」であることがひしひしと分かった(^_^)。

 

また何よりも役人の立場を利用して、すでに取り決めた金額を単純に値引きさせようとするそのやり方が汚いではないか。そして値引き額は相談ではなく、一方的なのだ!!

たぶん多くの中小企業の担当者が思いもかけない突然の値引きで困惑し肩を落としただろうことは想像に難くない。また私のようにネクストチャンスのある所は、きっとその値引き分を上乗せして次の場に挑んだに違いない(笑)。しかし役人が、役所がこれだけのことを実践する意味がどこにあるのかについては分かるはずもなかったが、今般の桝添知事の不祥事も含め、役人根性の一番悪い面を垣間見た気がする。

 

いま、手元にはその時の契約書が残っている。その「東京都知事 鈴木俊一」というゴム印と大きな「東京都知事」という角印(朱肉印)を見るたびに奴の「無理ならいいんだよ...」という声を思い出す。

 

 

東京都のとある施設担当者と作り上げた画像データベース仕様書(一部)

取り交わした契約書。但し当該契約書にソフトウェアの名はなく買い入れは "中央処理装置" となっている。当時コンピュータソフトウェアの価値は認識されていなかったからだ

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