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無礼な男

私の会社はアップルジャパンのデベロッパーだったし、一時はアップルがコンシューマー市場を目指すそのコンセプトと私の会社のソフトウェア製品がよくマッチングするというのでアップルのコンシューマー向けPerformaに自社開発ソフトがパンドルされたり、アップルから様々なイベントへの出展依頼はもとより、新製品発表会でソフトウェアのデモンストレーションを頼まれた。

 

勿論アップル主催のイベントであれば大勢のプレスも来るし少なからず宣伝にもなるだろうと可能な限り依頼に沿うよう努力していた。

アップルからの依頼は通常デベロッパ・リレーションズという部署からだった。当該部署は我々デベロッパーにとってアップルへの窓口でもあったし、なにか困ったことがあった場合には相談できる馴染みの方たちがいた。

 

しかしあるときデベロッパ・リレーションズではない別の部署から電話が入った。

話しを聞くとデベロッパ・リレーションズの○○から紹介されたが、今度×××をアピールするイベントをやるのでお手伝いいただけないか...ということだった。

要はMacintosh一式は展示会場に専用機として用意するのでソフトウェアを持参し、インストールの上で来場者たちにデモして欲しいという話しだった。

 

毛色の変わったイベントのようだし私はスケジュールを調整してその依頼を受けることにした。

そして当日、社員をひとり同行し指定された会場に出向いた。どうやらイベントはいくつか時間に分かれて進行しているようで、すでにかなりの来場者がいた。

私はそこにいらしたアップルの顔見知りの女性に来意を伝えて電話をくれた○○氏を紹介してもらうことにした。なにしろそれまでその担当者とは面識もなかったからだ。

 

紹介された男は私などからすれば若かったが当該部署の責任者のようだった。ただし男とは名刺交換はしたものの初対面の挨拶には相応しくないしかめっ面のまま彼の口から発せられた言葉に驚いた。

「実は予定通りにいかず時間がなくなったのでデモはいいです」という。「わざわざ来ていただいて」とか「時間を割いていただいたのに」あるいは「こちらからお願いして申し訳ない」という態度も言葉もまったくなくただ「いいです」という。

繰り返すが、初対面のそれも自分から依頼した事案であるにしては実に無礼な対応だった。

 

アップルジャパンには良くも悪くも個性的というかあくが強いスタッフも多々いたが、それらの人たちにしても一対一で対面すれば皆最低限の礼は尽くそうとした。しかしこの男の頭の中にはいま進行していることしかなく、目の前にいる私たちには意識が向いていない様子だった。いわば ”けんもほろろ” といった態度だった。

私は男にではなく、紹介の労をとってくれた顔見知りの女性に挨拶してその場を離れた。

いまでもときおり、その男がさもアップル在籍中はよい仕事をしてきたといった話しをするのを見聞きすると、あのときの不機嫌な顔を思い出し自分のやってきたビジネスというものがまったく見えていないと気の毒にさえ思う。

私は会社に戻り、名刺入れからさきほど受け取った男の名刺を取りだして今日の日付を記した後「バカ野郎なので二度と依頼を受けないこと」と書き添えた(笑)。無論こうした記入は足掛け14年間アップルと付き合ったものの最初で最後だった。

 

 

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