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コンサルタント契約破棄

私が自分の会社を解散した数年後のこと、ひとりの中年男性が私の自宅を訪れた。無論電話による事前のアポイントメントがあってのことだが是非相談に乗って欲しいとの依頼だった。

それまで足掛け14年間、アップルジャパンのデベロッパーとしてソフトウェア開発を生業としてきたし幾多の著書や雑誌への記事などでありがたいことに個人となってもささやかな仕事の依頼は舞い込んでいた。

 

その男とは初対面だったがある種の同業者だった。どこから私の名を知ったのかは不明だったが特に紹介者もいなかった。

要はソフトウェア開発をしているがMacintoshに関しての知識がないので開発全般のコンサルティングをして欲しいとのことだった。自社で専属のプログラマはいるもののGUIはもとより企画の段階から販売あるいはプロモーションに至るまでMacintoshの...Appleの業界はこれまでやってきたWindowsの業界とはまったく違うと聞いているから、一から教えて欲しいという話しだった。

 

ところで、会社をやっていた時代は基本上場企業からの依頼以外は受けないことにしていた。こういうと偉そうに聞こえるかも知れないが、我々のような超マイクロ企業は一件でも売上げが回収できなければ即破綻の可能性もあったからだ。ただし幸い時代の後押しもありそうしたポリシーで仕事ができていたが、さすがに末期は頑ななままでは成り立たずアップルジャパンから紹介を受けたというベンチャー企業と契約したもののやはりというかメチャクチャな相手だったという苦労も体験した。

 

そんなわけで見聞きしたこともない企業とお付き合いするのは気が進まなかったものの個人で仕事をやっていた私にとっては話しも聞かずにお断りするのは不遜と思い、事務所代わりにしていた自宅にご足労願った。

男は小さなソフトウェア開発会社の社長だった。いささか神経質な様子もみられたが腰も低く話しは理論然としており1年間のコンサルティング契約を受けることにした。そして費用は僅かな額だったが毎月決まった日に振り込んでもらうことで契約書を交わした。

 

その後、求めに応じて相手の会社にも伺ったし、具体的な案件があったときには事案に詳しい友人に同行してもらったこともあった。

「これはやはり失敗したかな?」と思ったのは初回の支払日に入金がなされていなかったことだった。

初回なのでうっかり...という可能性もありうるが、企業としてはあってはならないことである。というか、こうした場合のありうる理由はやはり企業の運営が巧く行っていないからだと経験上察した。要は資金不足で振り込めなかったのではないかと…。

 

それでもそのまま放っておくわけにもいかず、社長に電話をした。そして翌日か翌々日だったか当該金額は振り込まれたが私はあまり深く足を突っ込まないようにしようと思った。

そもそもコンサルティングの仕事はクライアントからの具体的な懸案提示を受け、なにをどのようにしたいのか、それに必要な人や物あるいはノウハウといったものを考慮し協議しながら問題解決を図ることだ。しかし3ヶ月ほどたってもそうした具体的なミッションの提示もなく、相変わらず時に振込がないということが続いた。

 

ただし契約は1年間だ。こちらから契約破棄も角が立つと思い、万一契約料の支払いがなければ動かないだけだと覚悟し契約期間中は臨機応変に受け流そうと思った。

4ヶ月目あたりのことだったか久しぶりに社長から電話があり、いきなり契約を破棄したいと一方的な話しがあった。

最初から喧嘩腰で苛立った話し方だった。

本来なら契約期間中はクライアント側の提案や依頼事項がなくても月額のコンサルタント料は支払っていただくというのが契約の主旨だったが、顧問弁護士に相談するまでもないバカバカしい沙汰であり、金額的にも時間的にも関わっているだけ損な事案だからと諦める覚悟をした。

 

社長の契約破棄の理由が例えば「資金不足で契約通り払えない。しばらく待って欲しい」というのなら正直大した金額でもないし同意しミッションがあれば可能な範囲で協力しただろう。しかし話しは支離滅裂で先月まで何の問題もなかったのになにか私の方で落ち度があったかのような言いぐさになった。これは企業として末期だなと感じた。

まあまあお好きなように…という感じで電話を切ったが、やはりというかしばらくしてその会社は消滅した。

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